『M』岩城けい著――アンドウマサト三部作完結編、多民族国家で揺らぐアイデンティティと越境する想い

文芸

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3秒で分かる要約

★★★★☆
おすすめ度
スコア: 4.2/5.0
難易度: 読みやすい

こんな人向け:

  • アイデンティティや出自の問題に関心がある読者
  • 多文化共生のテーマに惹かれる読者
  • 現代青春文学を求める読者
  • 「アンドウマサト三部作」の既読者
読む目安:2.5時間

本書の読みどころ

オーストラリアを舞台に、日本人としてのアイデンティティに葛藤する青年と、アルメニア系の女性が出会う越境青春小説。文庫版書き下ろし短編も収録。

異なる出自を持つ二人の関係が辿る先とは。

結論:この本はこんな人に刺さる

シリーズ完結を機に著者の代表作を知りたい読者、多文化社会の葛藤をみずみずしく描く作品を求める読者に最適。オーストラリア在住という著者の立場から生まれた、リアルな「分かりあえなさ」と人間関係の繊細さが本作の核。

三部作を通じた安藤真人というキャラクターの軌跡を完成させる一冊。

どんな本?

12歳でオーストラリアに移住した日本人大学生・安藤真人。就職を考えていた矢先、マリオネット制作の学生アビーと出会い、人形劇の世界へ導かれる。

日本人としてのアイデンティティに苦しむ真人と、アルメニア人のアイデンティティで葛藤するアビー。互いに理解したいと望みながらも、似た境遇だからこそ浮かび上がる「分かりあえなさ」――二人の関係の先にあるものとは。

新刊Hubがこの本を紹介する理由

『Masato』『Matt』に続く三部作完結作として、既読者の期待に応える一方、多民族社会における個人のアイデンティティ問題をテーマにした作品が今、改めて注目を集めている。在豪日本人作家ならではの現地の生きた声が、翻訳を経ない等身大の人間関係を生み出している点が重要。

文庫版書き下ろし短編という付加価値も、この作品を再発見させるチャンスとなる。

あらすじ

父の転勤でオーストラリアに移住した安藤真人は、現地の大学に進学。かつて憧れていた演劇の道を諦め、就職を考えていたその時、デザイン科でマリオネットを制作するアビーという女性に出会う。

アビーに誘われ、人形劇の世界へ足を踏み入れた真人。

一見すると似た背景を持つ二人だった。真人は日本人としてのアイデンティティに苦しんできたし、アビーもアルメニア人としての自分に葛藤を抱えていたのだ。

互いを知りたい、相手に触れたいという願いが二人を結びつける。

しかし、似た境遇だからこそ見えてくるものがある。出自について抱える背景の微妙な違いが、猛烈な「分かりあえなさ」を生み出していくのだ。

二人の関係が辿り着く先は――。シリーズ完結を飾る本編に、文庫版書き下ろし短編『His and Hers(彼のモノ・彼女のモノ)』も収録。

この本の魅力

魅力① 多民族国家オーストラリアを舞台にした、リアルなアイデンティティの葛藤

オーストラリアに実際に暮らす著者だからこそ描ける、教科書的でない、生きた人間関係。日本人としての立場とオーストラリアという環境の間で揺らぐ真人と、アルメニア系社会からの期待に押しつぶされそうなアビー。

それぞれが抱える複雑さが、二人が互いに理解しようとしても越えられない距離として機能する。こうした現実的な人間関係の描き方が、単なる恋愛小説の枠を超えた作品の奥行きを生み出しています。

魅力② 人形劇という表現を通じた、内面と外部世界の対話

マリオネット制作とその舞台化というモチーフが、キャラクターたちの心理状態を象徴的に描き出す工夫。操られる人形のように運命に翻弄される青春、自分たちで物語を作ろうとする創造性、表現者としての真摯さ――こうした要素が物語の構造そのものに組み込まれている点が秀逸です。

人形という媒介を通して、自分たちを知ろうとする二人の姿勢が浮き彫りになります。

魅力③ シリーズ完結による、安藤真人という一人の人間の軌跡の完成

『Masato』から始まる三部作を通じて、一人の青年がどう変わっていくのか、あるいは変わらないのか。本作はその答えを提示する最終章。

文庫版書き下ろし短編『His and Hers』も含まれることで、本編では語られなかった真人とアビーのその後を垣間見ることができます。シリーズ読者にとっては必読の一冊であり、本作から入る読者にとっても、一つの人生の軌跡を感じさせる重みのある終わり方が期待できます。

公開情報から想定できる読書体験

本作で期待できるのは、簡潔に「解決する恋愛」ではなく、「複雑なまま関係し続ける二人」の姿。出自や文化背景の違いが埋まらないことの苦しさと、それでも向き合おうとする誠実さが同時に描かれます。

多文化社会の現実と、そこで生きる個人の葛藤をみずみずしく味わいたい読者にとって、この作品は深い思考と余韻をもたらすでしょう。

こんな人におすすめ

  • 多民族社会における個人のアイデンティティ問題に関心がある方
  • 著者の前作『Masato』『Matt』を読了している方
  • 人間関係の複雑さと微妙なニュアンスを描いた青春小説が好きな方
  • オーストラリアという舞台を通じた異文化理解を深めたい方

読む前に知っておきたいポイント

異なる文化背景を持つキャラクターたちの内面を丹念に追う作品であり、深い心理描写を求める読者に向いています。一方で、恋愛小説として劇的な展開や解決を期待すると、現実的で複雑なまま終わる関係性に驚くかもしれません。

三部作の流れで読むと理解が深まりますが、本作単独でも各キャラクターの葛藤は十分に伝わります。多文化社会の微妙なニュアンスや、言語を超えた人間関係の難しさに向き合える読者に特におすすめです。

著者について

岩城 けい

岩城 けい(いわき けい、1971年 – )は、日本の小説家。大阪府大阪市生まれ。

出典:Wikipedia

M

M

著者岩城 けい
出版社集英社
発売日2026年10月20日
価格720円+税
ページ数264ページ
判型文庫判
ISBN9784087430479

類似作品

岩城けいの世界観に引き込まれたなら、著者のシリーズ前作『Masato』『Matt』の再読はもちろん、多文化社会における個人のあり方を扱う作品も併せておすすめします。似た問題意識を持つ文学作品を求める読者にとって、新たな視点が開くかもしれません。

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シリーズ完結を機に、新しい視点で人間関係と文化的背景を考えさせてくれる一冊。気になった方はぜひこの機会に手に取ってみてください。

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